高級コーティングの真価は如何に?
昨今は新車・中古車を問わず購入時に施工することも多い「ボディーコーティング」。
ただ一口にコーティングと言っても、1-2万円コース〜20万円超の高級路線まで様々です。
もちろん高額帯になるほど良いのは当然なのでしょうが、金額の開きが大きい割にその違いが解りづらい分野かと思います。
僕も金額帯や施工ショップによる仕上がり・耐久性の違いを説明しろと言われても的確に答えられる自信がありません…
巷では「10万円以上の本格コーティングでなければ意味がない!」「最近の塗装は丈夫だし、自己修復機能があるからコーティングなんて不要だ!」など様々な見解が飛び交い、更に頭を混乱させます。笑
百聞は一見に如かず
実は、友人のCクラスワゴンにボディーコーティングを施工するという話が舞い込んだのが本記事のキッカケです。
それもハイエンドな本格ガラスコーティングを自身のガレージに出張してもらう形で依頼したと言います。
こんな貴重な機会はなかなか無い!ということで施工当日の同席をお願いしました。
数千万円のスーパーカーが施工するようなハイエンドボディーコーティング。
その工程やBefore→After写真を紹介するとともに、高級コーティングの真価を探って行きたいと思います。
どんな仕上がりになるのか… 期待が膨らみます!
施工内容
まずは施工車両と依頼ショップの紹介です。
施工車両
車両 | メルセデス・ベンツ Cクラスワゴン(S205) |
年式 | 2014年式(7年経過) |
車体色 | オブシディアンブラック(197) |
走行距離 | 78,000km |
その他 | 約1年前に5万円程度のコーティングを施工 |
最近頻繁に登場してくれるCクラスワゴン、既にTOKYO CAR LIFEのレギュラーメンバーになっています、笑
ボディーカラーはソリッドのように見えますが、実は細かなメタリックフレークが散りばめられた「オブシディアンブラック」という色。
グラマラスなボデイーラインを強調する漆黒がとても似合っていますね。
ちなみに「オブシディアンブラック」は黒曜石(Obsidian)から由来しているようです。
近代メルセデスは、
ヒアシンスレッド=ヒアシンスの花(植物)
イリジウムシルバー=イリジウム(金属)
グラファイトグレー=グラファイト(鉱物)
モハーベシルバー=モハーベ砂漠
カバンサイトブルー=カバンサイト(天然石)
セレナイトグレー=セレナイト(天然石)
など鉱物・鉱石をイメージしたカラーが多くラインナップされています。
僕の好きだった「エメラルドグリーン」はいつの間にかカタログ落ちしてしまったようです…
ボディの現状
傷や水垢にフォーカスしていますが、7年落ち&80,000kmに届きそうな走行距離と雨や炎天下でも毎日乗っていることを考えれば程度は良好と言えます。
身内の愛車だからという忖度抜きに、オドメーターを見なければ2-3万kmの個体と錯覚してしまうでしょう。
新車時から屋内駐車を一貫してきたこと、一切修復しておらず完全なオリジナル塗装という愛情の賜物ですね。
ただ、近距離で見ると無数の線傷(爪が引っかからない程度)やウォータースポット(水垢)があり、言われてみると気になってくる…
高速道路移動が多いことからフロント周りは飛び石もチラホラ見当たります。
オーナーも「ガレージハウスに引越して、照明の下でまじまじと愛車を眺めるようになったが故に気になってしまった。」と話しています。
施工ショップ&プラン
今回は研磨&コーティングのプロショップ「レストレイションジャパン(Restoration Japan)」に依頼しました。
フェラーリ・ランボルギーニ・ロールス・ロイス等のスーパーカーも数多く扱うスペシャルショップで、クルマだけに留まらずクルーザー・オフィスビル・スパリゾートも手掛けています。
北海道中川郡(帯広駅から5km程度)を本拠地とする同社ですが、首都圏エリアからのオファーも多いため、都内にも拠点を持ち対応していると言います。
また、事前に代表取締役 藤田様に施工当日の取材を申し入れたところ快諾していただきました!
住所 | 〒089-0543 北海道中川郡幕別町札内中央町532番4 |
電話番号 | 0155-56-6778 |
公式サイト | https://rj-restoration-japan.com/ |
施工コース
コース | プレミアムコース(Lサイズ) |
施工時間 | 3〜4日間 |
施工内容 | 外装+ドア&ボンネット内部 |
料金 | 180,000円(税別) |
コーティング施工に密着!
早速、本記事のメインとなるコーティング工程を紹介しましょう。
工程01|ボディー状態の確認
作業に入る前にまずは傷の深さ、水垢や鉄粉の付着具合を入念に確認していく。
ボディー状態により、ベストなプラン・機材を選定するという。
ウォータースポットと呼ばれる水垢(シミ)は多々見られたが、屋内保管だったこともあり鉄粉被害はほとんどなし。本格的な鉄粉除去作業をせずとも研磨できるとの判断だった。
ウォータースポットは洗車後の水滴や雨水が蒸発した際に、ミネラルなどの成分が残留することによりできるもので、ブラック塗装は熱を持つのでウォータースポットになりやすい。
また、塗装面は乾いたタオルで拭くだけで線傷になってしまうほどデリケート。
白やシルバーの車も同じように傷つくが、ブラックはそれが目立ちやすいのだと教えてくれた。
動画作成サービス
レストレイションジャパンでは、施工シーン・Before→After・ガレージから出庫する様子などを撮影して3分前後の動画にまとめてくれるサービスが付帯する。
公式HP「MOVIE GALLERY」で作例が公開されていますが、どれも非常にクオリティが高い!
動画制作料金は施工プランに含まれるとのことで、自分のクルマで動画を作って欲しいという動機で同社を選択するお客様もいるほど。
施工開始前に、iPhoneで何パターンかの作例を見せてもらい、好みのトーンをヒアリングしてくれるという本格的な内容だ。
以下は今回制作いただいた施工動画。つい何度も再生してしまうクルマ好きの心に響く作品に仕上がっている。
工程02|ボディーウォッシュ(洗車)
ボディーチェックとプラン・動画説明が終わると、インセル葛飾から300mほどのコイン洗車場へ向かった。
23区内のコイン洗車場はもはや絶滅危惧種… この距離感で洗車場があるのは本当に恵まれた環境だと思う。
コースはシンプルな「泡洗車」を選択。
洗車も一切無駄のない動きでテキパキと進められていく。
僕なんかだと洗車機のタイマーに煽られながらテンヤワンヤするのに「時間余っちゃいましたね〜」と余裕の笑みだ。
せっかくなのでプロの洗車をまじまじと拝見すると共に、洗車のポイントを伺ってみた。
洗車前準備としては、スプレー状の鉄粉除去剤を塗布。
事前のボディーチェックで鉄粉はほぼ付着なしとの判断だったが念には念を入れて。
特にホイールやフェンダー・タイヤ後ろ部分は鉄粉が付着しやすいことからボディー下部を中心に吹きかける。
2-3分放置して洗浄ガンをスタート。まずは、車両全体の汚れやホコリを流していく。
鉄粉があると溶剤が反応して紫色の水が出てくるのだが… ボディーはほとんど無色透明、ホイールからは紫色の排水を確認できた。
続いて、泡洗剤を散布して洗い工程。
基本はより汚れている足回り→ボディー下部→天井という順で下から上に向かって洗っていく。
ムートンモップを使用して、なるべく力をいれない、直線的・規則的に動かすのが鉄則だ!
グリルなど網目状になっている部分はブラシを使用して丁寧に汚れを落としていた。
全体を洗い終えたら、泡や水が乾かないよう素早く流していく。
拭きあげでは極力“擦る”行為は避けたい。
GYEON(ジーオン)というメーカーのマイクロファイバー「シルクドライヤー(Mサイズ)」をマントのように滑らせて拭き取っていた。
コレは凄い!一発でエンジンフード半分の面積を拭き取れて水滴ひとつ残らない。
ドア・窓・エンジンフードの内側まで丁寧に水滴を拭き取った後、10分ほど車を走らせ余分な水分を飛ばしてインセル葛飾へ戻った。
ガレージへ戻りながら、コーティング効果・良好なボディー状態を長持ちさせるポイントについても伺った。勉強になる内容が多かったため、併せて共有したい。
洗車は曇りがベスト
洗車するなら、スカッと晴れた日!
と思いがちだが、ベストは“曇り”だという。
ボディー表面温度が上がると拭きあげ前に水滴が蒸発してしまい、水道水に含まれる成分が残留してウォータースポットになりやすいからだ。
さらに直射日光は水滴が虫眼鏡のような役割を果たし“レンズ効果”でボディーが焼けてしまうこともある。小学校の頃、虫眼鏡を使い黒紙を焼き切る実験があったのを覚えているだろうか、その原理だ。
理想は曇りや夜間、ピーカンで洗うくらいなら小雨の方が良い。あと機械洗車がNGなのは言うまでもない。
紫外線はコーティングの大敵
頻繁に洗車をするとコーティングが剥げてしまうのでは…と心配されることがあるが、コーティング被膜は強く、洗車くらいで剥げるようなものではないので安心してほしいと断言。
それよりも紫外線によるダメージの方を気にして欲しい。紫外線の攻撃性は想像以上に強烈で、コーティング剤の分子を破壊してしまうのだそう。
紫外線への曝露が少なけば2-3年コーティング効果を維持できるため、できれば屋内保管することが好ましい。
また、ボディー下部はコーティング被膜の上にミネラル(雨水等の跳ね上げによる)が付着して撥水能力を発揮できない状態になっていることも多いようで、この状態ならミネラルオフをすることで効果を復活させることができる。
基本は紫外線の影響を受けやすい天井・エンジンフードから劣化していくため「天井は撥水しているのに、ボディー下部が微妙…」というケースでは可能性が高いという。
ボディーカバーは要注意
紫外線が天敵となれば、ボディーカバーを掛ければ…と考えがちだがこれも注意が必要だ。
風で砂やチリを巻き込み、それらがボディーとカバーの間で暴れることで無数の傷をつける…これは最悪なシチュエーションである。
ボディーカバーを使用する場合は、徹底した風の巻き込み対策が必須なのだ。
工程03|マスキング
メッキや樹脂パーツ、ガラスなどポリッシャーが当たってはいけない部位を保護するために、マスキングを施していく。
窓モール・ドアハンドル・エンジンルームも徹底的にマスキングして保護する。この工程だけで数時間を要することもあるが、仕上がり品質に関わる部分なので妥協はできない。
必要に応じてプレスライン部分も細いマスキングテープで養生を行う。
塗装は“角”が薄くなりやすくデリケートなので、はじめはマスキングで保護しておき、仕上げ工程に近づいたタイミングで剥がして慎重に磨いていく。
赤いマスキングテープもレストレイションジャパンの拘りだ!
ブラックボディ×レッドラインの組み合わせがなんだかカッコイイ… マスキングテープ=黄色という先入観があったからか、とても特別感を感じる。
余談だが、施工の際は貴金属類(アクセサリー、時計)はもちろん、ベルトやファスナー付き衣服も着用しない。
万が一にもお客様の愛車を傷つけないようにと全スタッフが徹底しているという。
工程04|ポリッシング(磨き)
さて、下準備が完了するといよいよ“研磨”へと移る。
まず「膜厚計」と呼ばれる測定器で被膜の厚さを測る。
施工車両は100〜107μという値だった。
ちなみに、フェラーリ・ランボルギーニで200μ、プリウスで90μ、全塗装した車で400μあたりの値らしい。
ただ、厚み=塗装品質という単純なものではないのであくまで参考情報として捉えてほしい。
使用するポリッシャー
ガレージ脇に研磨で使用する機材を並べて紹介してくれた!
どれもボディー研磨に使用するポリッシャーと呼ばれる機材だが、大きさや動き方に違いがある。
①シングルアクション 150φ
②シングルアクション 125φ
③ダブルアクション(21mm) 150φ
④ギアアクション 125φ
⑤ダブルアクション(21mm) 125φ
⑥ロテックス 125φ
⑦ダブルアクション 75φ
⑧ダブルアクション(フレックス充電式) 75φ
⑨ダブルアクション(ナノ)
ポリッシャーには3つの動き方(アクション)があり「シングルアクション>ギアアクション>ダブルアクション」の順で切削力が異なる。
傷が深めの個体ならシングルでガッツリ削ってからギア→ダブルと徐々に表面を整えていくし、傷の浅い個体ならダブルアクションのポリッシャーのみで完結することもある。
今回はそれほど深い傷もなかったため、ダブルアクションのみを使用する形で進められた。なお、⑧⑨はスポイラーやドア内側など細かい部分で活躍する。
磨きは上から下に進めていくのが原則、何故なら下から進めてしまうと、天井を施工する際にポリッシャーの電源コードが触れただけでもせっかくの鏡面に傷をつけることになるからだ。
研磨(1回目)
まずは切削力の強い「ウレタンバフ+粗めのコンパウンド」で全体の傷を消す作業。
ポリッシャーに取り付けたバフにコンパウンドを塗布してボディーを研磨していく。
この時点で磨きが完了した部分は明らかに黒の深みが増し、塗装が蘇っているのがわかる。
湾曲部分やプレスライン部分はポリッシャーの角度を微調整したりバフのエッジ部分を使いながら均一に磨くという職人技が炸裂していた。
研磨(2回目)
「傷を消すこと」を目的とした1回目の研磨では、いわゆる“磨き跡”が残ってしまう。
そのため、2回目は「スポンジバフ+細かいコンパウンド」を使用し、この磨き跡を消して鏡面にするための工程だ。
1回目と同じくルーフ部分から丁寧に研磨していく。
マスキングしたモール・エンブレムすれすれの所やドア・リアハッチ内部まで徹底的に磨く。
全体の研磨が終わると細かな仕上がりチェックが入る。
荷物の出し入れで傷付けてしまったというリアバンパーの傷が残ってしまったので重点的に対処してくれた。
続いて左ミラー下のウォータースポットを発見したため、小型のポリッシャーを使い部分的に磨きかける。
研磨(3回目)
最後に「より柔らかいスポンジバフ+さらに細かいコンパウンド」を使用して仕上げに入る。
2回目終了時でも十分鏡面と言える状態だったが、言われてみれば黒の深みと控えめに散りばめられていたフレークの存在感が増した気がする。
「2回目の磨き程度でも十分な完成度だしこのくらいで仕上がりとしている業者もある、でも完璧を求めるのがうちのコダワリだから」と話す藤田社長。
マスキング工程あたりからの作業を見ていて「完璧主義者なんだろうな…」と察してはいたが本当に恐れ入ります!
今回は全3回の研磨を経て下地が完成したわけだが、傷の程度によっては4〜5回研磨を行うこともあるとか。
工程05|コーティング剤塗布
マスキングテープを剥がしたら、コーティング剤を塗布する。
コーティング剤も「ベースコート」「トップコート」の2剤があり、まずベースコートを塗っていく。
溶剤は空気中の酸素と結合して塗布後数十秒で硬化するため、2名体制でコーティング剤を塗った場所から拭き取りをして行くという流れで進められる。
ベースコートが乾くのを待ち「トップコート」を塗布、20-30分乾燥させて完全に硬化させたら完成だ!
施工完了
驚きの水弾き!
「Restoration Japan」のロゴが入ったボトルを取り出す藤田社長。
フェンダーにドバドバと水をかけてみると…
す、すごい…
ツルッと弾かれ流れていくではありませんか!
「ぉお〜、もう一回!」のリクエストに応え3回、4回…と繰り返して、ガレージの床に水たまりができるほどぶっかけてもボディーには一滴も残らない!
ある程度の撥水性能には期待してましたが、正直ここまでの効果は衝撃的でした。
ちなみに施工が完了したのは17時半、朝9時からぶっ通しで施工してくれたお二人に改めて感謝です。
Before→After
さて、コーティング目的の一つだった線傷除去に関してはどうでしょうか。
結論から言えば、ほとんどの傷が消え新車(いや新車時以上?)の状態に“復元”されました。
特に線傷が目立っていた部分のBefore→After比較画像を用意しましたのでご覧ください。
01エンジンフード
02助手席ドア
03運転席ミラー
04リアバンパー
いかがでしょうか。
実車は写真で見るよりも明らかな違いがあり、冗談抜きにクルマが蘇りました!
取材協力
株式会社レストレイションジャパン
代表取締役 藤田 泰成 様
カーコーティングのみならず、クルーザーや温泉施設も手掛ける磨きのプロショップ「レストレイションジャパン」を率いる藤田社長。
その研磨技術はテレビ東京「和風総本家」への出演や有名人から指名されて愛車を磨くなどお墨付き。
取材では“我々は魅せる仕事である”と強調されていたのが印象的でした。
例えば、統一されたユニフォームや赤いマスキングテープ、さらには“磨くポーズ”にまで拘っていると言います。
ただ作業するのではなく、その一瞬一瞬がカッコイイものでなくてはならない!動画制作サービスもこの考え方から生れたモノなのでしょう。
ユニフォームに至っては、なんと毎年モデルチェンジ!
毎日着るものだから、スタッフや自身が仕事はじめにやる気が出るようなデザインにしたい…という想いを込めているそうです。
また、扱う車種は高級車が多いのでは…?という会話では、
「軽自動車や何十年も乗っている車を依頼いただくこともある。オーナー様の愛着や愛情は車両価格とは関係ない、どんなクルマでも一切妥協せずに均一のクオリティで仕上げる」という言葉に藤田社長のプライドを感じるとともに、大きく共感しました。
作業工程や機材について丁寧に解説していただいたり、写真・動画撮影にも快く対応いただき、とても楽しい一日となりました。
本日はありがとうございました、あらためて感謝申し上げます!